空売りの買戻しと新規買いのタイミングの違い

私はイギリス国民投票の前の段階でロング・ショート戦略を採用し、結構な金額の空売りを実行しています。ここで問題になるのが、「いつその空売りを買い戻すか」という点です。
基本的には、空売りは買いの逆ですから、25日移動平均線を超えて上昇したときが、空売りの買戻しのタイミングとなります。これは、新規買いと同じタイミングです。実際、空売りを損切りする場合はこのタイミングで買い戻しを行います。

ところが、空売り実行後株価が大きく下落した場合、新たな買戻しのタイミングを模索する必要があります。
なぜなら、株価が大きく下落して底打ちをし、株価が上昇に転じて25日移動平均線を超えるところまで空売り玉を持ち続けると、せっかくの利益が吹き飛んでしまうことが多々あるからです。
実際私自身も、4月上旬の調整局面で空売りによりかなりの額の含み益が生じていたにもかかわらず、買戻しをしなかったため、そこからの株価の反転上昇により含み益がほぼ吹き飛んだという苦い経験があります。

したがって、株価が短期間で大きく下落した場合、空売りを利食うタイミングであるかどうかを判断しなければなりません。
この際にチェックするのが、「売られすぎ」の指標が出ているかどうかです。例えば日経平均株価や個別銘柄の25日移動平均線からのかい離率、新安値銘柄数、信用評価損益率、6日ないし25日騰落レシオなどです。
今回の下落では、騰落レシオは売られすぎの水準まで達していません。しかし、6月24日の新安値銘柄数は716に達しており、2月12日の1023、1月21日の746に次ぐ大きさで、売られすぎを強く示唆しています。信用評価損益率はあるネット証券の数値でマイナス20%近くまで達しており、もうそろそろいい水準まできています(ちなみに2月12日はマイナス26%)。また、日経平均株価の25日移動平均線からのマイナスかい離は売られすぎの目安の1つである8%近くに達しています。個別銘柄でみても、25日移動平均線からのマイナスかい離が20%を超えている銘柄も数多くあります。
これらを総合的に判断すると、空売りは利食いの買戻しを優先すべき局面ではないかと個人的には思います。

もちろん、ここから株価がさらに下がることもあります。その場合、まだ利食いしなければよかったということになりますが、それは結果論です。売られすぎの指標がいくつも出ているのであれば、そこから株価がさらに下がるかどうかは考えずに、利食いの買戻しを実行すべきです。
そもそも、空売りの場合はトレンドが上昇トレンドに転じるまで粘るのではなく、下降トレンド中であっても株価が短期間で大きく下落したならば買戻しをして確実に利益を確保すべきというのが私の考え方です。ですから、底打ちを確認する前の下落途中であっても積極的に利食いを進めていって問題ないと思います。大きな利益を狙うのはあくまでも「買い」であり、「空売り」は買いによる損失を補てんできれば十分と考えているからです。

なお、下落相場において、買いのヘッジとして空売りを実行している場合、株価が大きく下落した局面では、すでに大部分の買いは売却ないし損切りが済んでいる一方、空売りが多く残っている状態のはずです。つまり、買い玉を売却・損切りしたことによる損失はすでに実現している一方、空売りについてはまだ含み益の状態で、利益が実現していないことになります。
もしそこから株価が反転上昇した場合、空売りの含み益は減少してしまい、せっかくのヘッジ効果がなくなってしまいます。
したがって、積極的に利益を得る目的ではなく買いのヘッジとして空売りを実行した場合、買い玉が売却等により大きく減少しているならば、それに合わせて空売りも買い戻して利益を実現させることが、ヘッジ効果を享受するために必要となります。

足立武志
1975年神奈川県生まれ。足立公認会計士・税理士事務所代表、株式会社マネーガーディアン代表取締役。株式投資・資産運用に精通した足立公認会計士・税理士として、個人投資家への有益な情報発信に努めている。

10万部超ベストセラーの『株を買うなら最低知っておきたい ファンダメンタルズ投資の教科書』(ダイヤモンド社)など著書10冊超。楽天証券「トウシル」でのコラム連載11年、570回超。日本経済新聞社、楽天証券、マネックス証券、日本取引所グループ、資産運用EXPOなどセミナー講師多数。

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